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COLUMN

京都の象徴、大文字山と一体化した話。〜後編〜

2024.8.25

奇跡の連続によって、山から街へ生還する。

電波が通じる。電話ができる。

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大文字山で、ワンピースにサンダル姿という
軽装のまま、すっかり遭難してしまった私は
小さな看板の前でひたすら救助を待ちました。
 
しかし、10分待っても、20分待っても…
 
救助隊は現れません。
 
それどころか
もし現れた男性に、襲われたらどうしよう…
という恐怖すら芽生えて来てしまいました。
 
ここだったら、どんなに叫んでも
誰にも私の声は届かないでしょう。
 
ますます怖くなってきてしまった私は
ふと思い立って、お世話になっている
ライブハウスのオーナーさんに電話を掛けました。
 
なぜ彼の顔が思い浮かんだのか、今思うと謎です。
滅多に電話をするような間柄ではない上
夜にしか通話をしたことがなかったので
彼が電話に出てくれたことも今思うと奇跡でしかありません。
 
「はいはーい。スナワちゃん、どしたー?」
「あのー、実は今、大文字山にいまして…」
「大文字山ー?あははー!なんでまた」
「山頂まで行ったはいいんですけど、降りる時に道に迷って…」
「ほう」
「遭難しちゃったかもしれないんですよ…」
「えー!遭難?今どこにいるかとか、手掛かりはないの?」
「孫熊山三叉路っていう看板があって」
「孫熊山…?」
「救助に来てくれるって話なんですけど、なかなか来なくて…」
「とりあえずは、動かないでそこで待ってる方がいいかもね」
「ですよね。でも不安でいてもたってもいられないんですよ」
「そういえば、スマホの中にコンパスって入ってるでしょ?」
「コンパス…!?あ!そういえば入ってたような…」
「救助が来なくても、最悪コンパスがあればなんとかなるんじゃない?」
 
このコンパスを使えというアドバイスが
結果として、私を救うことになりました。
 
「おーーーい!助けに来たぞーーー!」
 
近づいて来た声の主は
ムツゴロウ王国のムツゴロウさんにそっくりの
陸上の競歩選手のようなスタイルの男性でした。
 

全ての点が線で繋がり、帰還。

もう助かった!この人についていけば安心だ…!
 
そう思ってホッとしたのも束の間。
 
ムツゴロウさんは、私を助けたい…という
プレッシャーから、気負ってしまったのか
普段、歩き慣れているはずの山の中なのに
完全に方向感覚を失ってしまったのでした。
 
右へ進んでも、左へ進んでも…
 
同じような森が続くこと、数時間…
 
我々は結局
2人まとめて再度遭難してしまったのでした。
 
「地図はあるんだけど…方角がわからない…」
 
彼がそうつぶやいた瞬間
脳内に電撃が走りました。
 
「そうだ!私、コンパス持ってますよ!」
 
こうして、全てのピースが揃い
そこからさらに1時間ほどを掛けて
私は無事、大文字山を脱出したのでした。
 
大文字山の神様は
自由奔放に走り回って勝手に遭難した私を
一生懸命、守ってくれたんだなと思います。
 
たくさんのサインを出して
無事に街へ帰れるようにしてくれたんだな…と。
 
家へ帰り、安堵とすると共に
改めてベランダから大文字山を眺めていたら
ザーッ…という音と共にゲリラ豪雨が始まり
私は背筋が凍るほどゾッとしました。
 
もし、今この瞬間もあの山にいたら
命がどうなっていたかわからない…
 
無事に街へ帰ることができた、全ての奇跡と
偉大なる大文字山の力に感謝した瞬間でした。
 
大文字山では、毎年20名ほどの
遭難者が出ているのだそうです。
 
皆、私と同じように山頂へ行き
帰りにあのリボンを信じて惑わされ
方向感覚を見失ってしまうのだそうです。
 
このコラムを読んでくださっているあなたも…
 
大文字山の山頂へ足を運ぶ際には
どうか、くれぐれもお気をつけて。

 

sunawamakiさん
written by『sunawa』

WhateverShimogamo にある占いサロン『或庭』の鑑定師で、Whatever のメディアパートナー。電子音楽系ミュージシャン『sunawamaki』として、楽曲の配信も行っている。お笑いが好きで、NSCに入学したことも。お気に入りは、ゼルダの伝説、Bjork、チーズケーキ。


 

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